インタビュー

ただ、そこにいられる場所を。〜しわのわ・藤田美紀さんが志和の古民家でひらく、対話の時間〜

しわのわについて

「しわのわ」は、広島県東広島市・志和(しわ)町を拠点に、地域に根ざした学びや交流の場づくりをおこなう一般社団法人です。

人と人、人と地域をつなぎ、持続可能な学びと暮らしを未来へ残す活動(志和の教育や文化を支える仕組みづくり、空き家の活用、ツアーイベントやカフェ・宿泊施設の運営など)を行なっています。

志和という地域について

志和は、広島県東広島市の山あいに広がる盆地で、 四季や天候によってホタルやレンコン畑など美しい景色を見ることができます。

農業に従事する人も多く、「自然が近くにある」「人がとてもあたたかい」など多くの魅力を秘めた地域です。

今回のインタビュー

広島市内で、夫と2歳の娘さんと暮らす海外経験豊富な藤田 美紀(ふじた みき)さん。広島大学教育学部を卒業し、教員として働いたのち、大学院生のときに志和と関わり始めたそうです。

現在は志和を舞台に、ありのままの自分でいることができる「場づくり」を行っている服部さん。今回は、彼女が歩んできた道のりと、その根底にある子どもたちや「対話」への熱い思いを伺いました。

大学院時代に出会った「志和」の温かさと、子どもたちの輝き

藤田さんと志和との出会いは、大学院時代にまで遡ります。地域のパンフレット制作や街歩きのプロジェクトに携わるなかで、「しわのわ」の一員として活動するようになりました。

「初めて志和に足を運んだとき、自然の豊かさはもちろんですが、何より『人の温かさ』に驚きました。よそから来たわたしを、やわらかく、やさしく受け入れてくれる安心感があったんです」

志和に通う中で、藤田さんの心に強く残っている光景があります。それは、地元の中学生たちが企画・運営した「地域の散歩イベント」でのことでした。

「大人がお膳立てしたものではなく、子どもたちが自分たちで『ここが面白いよ』『ここを見てほしい』とクイズを織り交ぜながら、楽しく案内してくれたんです。そのとき、大人の都合やタイムスケジュールで子どもを動かすのではなく、彼らの歩幅や発見を周りの大人がそっと見守り、心から尊重している空気を感じました。志和という土地だからこそ、子どもたちが生き生きと、自分らしく輝けるんだなと感銘を受けたのを覚えています」

「間違えてはいけない」プレッシャーと、教員時代に抱いた評価への違和感

服部さんの「ありのままを大切にしたい」という場づくりへの強い思い。その背景には、自身がかつて抱えていた大きな葛藤と、教員としての経験がありました。

「幼い頃の私は、常に自分を律してガチガチに頑張っていたところがありました。学級委員、副部長、生徒会長などをやってきて、『間違えてはいけない』『嫌われてはいけない』というプレッシャーを無意識のうちに感じて育ったなと感じます」

大人になり、自身もタイの日本人学校や国内の学校で教壇に立つようになった服部さん。しかし、教育の最前線に身を置く中で、ある違和感が少しずつ膨らんでいったと言います。

「学校現場では、決められた時間割や学習指導要領に沿って、子どもたちを数字や言葉で「評価」し、枠にはめて固定してしまう側面があります。本来人は、できること、できないことのはざまで揺らぎながら育っていくもの。できていたことができなくなったり、できなかったことが長い目で見てできるようになったり。だからこそ、私はどうしても短期間で評価という形にしてしまうことに対して息苦しさを感じてしまって。信頼できる大人や友達に良い評価をもらえることがうれしく、次につながる原動力にもなる一方で、外側のものさしが自分の価値をはかる手段になり続けてしまうことの危うさを感じていました。」

言葉や属性を超えて――古民家「ホタルの宿」で始まった、月1回の「対話の場」

「もっと、意味付けや評価から解放されて、ただそこにいられる場所が必要なんじゃないか。」

そんな服部さんの願いが形になったのが、2025年9月から志和の古民家「ホタルの宿」でスタートした、月1回の「対話の場」でした。

「ここでは、肩書きや住んでいる場所、どんな職業かといった『外側の尺度(属性)』はいっさい関係ありません。ただ一人の人間としてそこに集い、その時々で心の中にあるものを分かち合う時間を大切にしています。何かを獲得したり、前のめりなモチベーションで集う場ではなくて、ただ包まれている、そんなイメージです。」

さらに藤田さんが模索しているのは、言葉だけに頼らない、多様なグラデーションを持つ「対話」のカタチです。ある時はフルートの音色に耳を傾け、ある時はアートを通して自分の内面と向き合う。フィンランドからのゲストを迎えた際には、フィンランドの事例をベースに、個人のあり方の意識からまちづくりのあり方まで、一人一人が自分にできることを考えるきっかけが生まれました。

「言葉はとても便利ですが、時に相手を決めつけてしまったり、本当の気持ちを縛ってしまったりすることもあります。モヤモヤした感情を言葉にすることで安心する側面もある一方で、言葉になりきらない感情のグラデーションを言葉という枠にあてはめてしまうことで失われてしまうものもあるのかなと思っています。

音楽やアートを介することで、よりピュアに『自分の内側』や『相手の存在』とつながることができる。何か特別なことをしなくても、ただそこにいるだけで、自分のエネルギーがじんわりと満ちていく――そんな優しい空間を、この志和の地で育てていきたいと思っています」

子育てが教えてくれた、幼少期の自分との再会

教員時代の葛藤を経て、現在は2歳の娘さんである一花(いちか)ちゃんの子育てに奔走する藤田さん。実はこの「母になる」という経験そのものが、彼女の活動にさらなる深い意味をもたらしたといいます。

「娘を育てていると、不思議と小さかった頃の自分自身の記憶や感情が、ふっと蘇ってくる瞬間があるんです。かつて『間違えちゃいけない』と自分を縛りつけていたあの頃の私の気持ちに、今の私が娘を通してもう一度出会い直しているような感覚です」

一花(いちか)ちゃんの成長を見守る中で、藤田さんは「親になって初めて気づく、自分の親の愛情」も実感するようになったと言います。

「当時は息苦しさを感じていたこともありましたが、親もまた、理想と現実のはざまで葛藤しながらも、必死に私を育ててくれていたんだなと。娘は、私に過去の自分を癒やすチャンスをくれている気がします。同時に、私がこれから進むべき道を、その小さな背中でそっと示してくれているような気がするんです」

これからの挑戦――「ただそこにいるだけでエネルギーをもらえるコミュニティ」を目指して

藤田さんの挑戦は、月1回の対話の場に留まりません。現在は、同じ志を持つしわのわ代表の笠井さんと共に、学校跡地などを活用した新しい「マルシェ」の計画を温めています。

「何か特別な目的や『性急な意味付け』を必要としない場所にしたいのです。ただふらっと立ち寄って、美味しいものを食べたり人と話したりするうちに、『よし、明日からもまた頑張ろう』と思えるような、エネルギーをチャージできる空間を作れたらと思っています」

さらにその先には、大人も子どもも関係なく、誰もが自分の内側と繋がれる「フリースクール」のような、広い概念のコミュニティを作りたいという大きな夢があります。

そんな藤田さんのこれまでの経験や想いが一冊に凝縮された書籍が、今年7月に出版される予定です。(出版が決定しましたらお知らせいたします!)彼女が紡いできた言葉たちが、今度は本という形になって、より多くの必要とする人の元へ届こうとしています。

「人と人が出会い、育ちあうとはどういうことなのでしょう。いま書いている本では、子どもの育ちを観察しているようでいて、実はずっと『わたし』の育ちを描いています。教育学部での学び、海外や日本の小学校での教員経験、大学院での研究、認定こども園での仕事、妊娠出産、子育て、森のようちえん、対話の場・・・単純な出来事の羅列ではなく、わたし自身の見方が変容していく過程を描くことで、読んでくださる方の中にも、大切だったはずだけど忘れていた記憶がふと立ち上がる、そんな『たね』のような本になったらいいなと思っています。」

今年の秋には第二子を出産予定の藤田さん。いまは子育てに専念しながら、自分の内側の感覚を磨きつつ、文章を書くことや対話の場を通して、人とつながり続けたいという想いを持っている。

藤田さんよりメッセージ

「志和は、ただそこに身を置くだけで自然とつながり、自分の内側にフォーカスできる、とても不思議で温かな力を持った場所です。今、何かに息苦しさを感じていたり、自分を見失いそうになったりしている方がいたら、ぜひ一度、志和に足を運んでみてください。何もできなくても、ただここにいるだけで、心がじんわりと満たされていくのを感じられるはずです」

属性や評価の枠から飛び出し、ただ一人の人間として呼吸できる場所。藤田さんが志和で育む「対話の場」は、これからも多くの人の心をそっと解きほぐし、明日の活力を灯し続けていきます。

【Instagram】
@awai_no_koto

【note】
https://note.com/_m_capo__

記事を書いた人

宮﨑 晴香(みやざき はるか)

佐賀県在住。「しわのわ」の広報チームとして活動紹介やInstagramを担当。学生時代に志和の古民家シェアハウスに住んだ経験から地域の魅力にハマる。志和から離れた場所にいても関わっていける方法を模索中。

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